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大匙屋

聞かせてもらうぞこの世界の謎を

世徒ゆうき新刊「千歳」  

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世徒ゆうき先生の実に7年ぶりの新刊 「千歳」 が発売になった。
陰茎の執拗な描き込みと濃厚なF描写で一世を風靡してから早20年。すでにベテランの域に達しながら、なお貪欲に絵柄を進化させるその向上心には頭が下がる。従来多用してきた90年代サブカルコメディ風タッチが今作では鳴りを潜め、竿役も今まで描かれなかった筋肉ダルマだったり、劇画調とまではいかなくても、かなりリアル寄りに仕上げてきた。前からラレ展開は描かれてきた作家さんだが、人気があっても読者に媚びることなく、今回はより読者の心をえぐりに来てる(最近このジャンルを「BSS」というらしい)関係で技術的選択が試行されたものと見られる。

思えば2019年~2020年は「カラミざかり」と「千歳」がずっと成人漫画界のトピックにあった。NTRジャンルが一定のプレゼンスを獲得したと考えるには早計だろうが何らかの影響はしばらく続くだろう。両作品をあれこれと比較する論調も随所で見た。


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▲世徒スレより

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▲アマのレビューより

「このヒロインが何を考えてるのかわからない」というのは、この手のジャンルで必ずといっていいほど出てくるリアクション。何を考えているのかわからないヒロインに振り回されるのが良いのだ。ヒロインの考えていることがわからないように描かれているわけだから、わからないという感想が出るのは至極まっとうで正しいといえる。

僕から見て飯田里帆という少女は父親不在環境で育ち、異性との適切な距離感を学ぶより先に色事におぼれた人、というまさに「流され」のイメージだが、一方で仁科千歳という少女は「世界がぶっ壊されるのを待ち焦がれていた人」という印象だ。

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近しい立場にいた堀君さえ「やっぱり床屋になるの?」と彼女に問う。周囲が自分の人生に大きな変化を期待していない事実に対して千歳には何処かやるせない思いがあったはずだ。

「君は人生をこう生きるのだろう」と簡単に思われてしまう、そんな退屈な世界が誰かの手でメチャクチャに壊されるような、驚きの変化が突如もたらされるのを心のどこかで期待しながら、でもやっぱりそんな大事件はそうそう起きないよね、そうやって周囲と折り合いをつけているのが仁科千歳という人だと思う。

誠実で良心的な堀君に千歳は好感を抱いてるけど、同時に堀君が決して世界をメチャクチャに壊したりしない人であることも理解している。だから隆之に何もかも奪われるという瞬間になった時、堀君が止めに介入するならそれもよし、そうでないなら奪われるもよしと完全に状況に身をゆだねてしまう。千歳自身が一番知りたかったわけです。自分の世界が本当はどうなっていくのかを。

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典型的な世徒ビッチの美香。ミステリアスな彼女だけど、実は千歳のメンターで「代弁者」でもある。千歳が何を訴えたいか、何をどうしたいのかをすべて把握していて、常に先回りして誘導する。千歳が世界の崩壊を望むから、美香はそれに向かって千歳を導く。

千歳と堀君との関係について、美香が千歳に事前に確認を取っていないはずがない。「堀君はただの友達で、特別な関係も感情もない」といった言質があったから美香は行動に出られたはず(堀君が隆之にそう告げたように)。行動の結果として「思ったより堀君は千歳のことが好きだったらしく、堀君が傷ついてしまった」という認識が後から美香にもたらされたと考えられる。その認識は姉弟間で共有され、カラオケイベントの企画であったり、「しゃーねえ」「いいぜ堀君なら」といった隆之の好感度を上げる台詞に繫がっていく。

堀君は堀君で、狂ったように快楽を貪るアへ顔の千歳=普通に告白して普通に付き合ってたら恐らく永久に知ることの叶わなかった淫獣千歳の本質(隆之にも誰にも見えていない)を目の当たりにし、自己革新に至る。そのおかげで、ちょっと信じられないような、世徒作品とは思えないような超さわやかエンディングをこの作品は迎えるわけです。
つらくて苦しい寝取られだけが寝取られじゃない。新しい名作が誕生。


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