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大匙屋

聞かせてもらうぞこの世界の謎を

イマジナリーラインの越え方を見る  

画面内にいる人物2人を結ぶ直線がイマジナリー・ライン。映像の世界においては、カメラがこの線を越えて撮影してはならんという原則があります。

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なぜ越えちゃいけないのかというと、要は方角がわからなくなるからです。
あるカットで左を向いていた人物 (上図カメラBの映像)が、続くカットで右を向いてたり (同カメラC)すると視聴者は混乱し、疲れてしまう。なのでイマジナリーラインを越える撮影は避けましょうねという基本ルールがあるわけです。

まあこれは実写とアニメではまた違う、劇場とTVでも微妙に変わる話だったりするので、もし混乱の心配がないのなら越えちゃってもかまわない。「咲 -Saki-」の試合シーンなどがそうですね。あれは席が固定で移動がないですから、どんな方向から撮っても混乱は少ない。

実は混乱があったとしても、関係なく越えてかまわないんですよ。妥当な理由があって、越えちゃった方が演出的に良い映像になる場合、ルールなど無意味です。盗んだバイクで走り出します。

一方で「イマジナリーラインなんか大した問題じゃない、見る方は誰も気にしねえよ!」と豪語する視聴者がたまにいますが、それは映像を見て方角を察知する感覚に優れた方か、逆に演出に惑わされてる可能性があります。今回はそのへんの話をしようと思う。



■艦隊これくしょん -艦これ- #01 (2015)
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鎮守府、提督室前廊下。新たに着任した吹雪と同僚・睦月の最初の出会い。緊張する吹雪は、深々とお辞儀をした拍子にカバンを落とし、床に荷物をぶちまけてしまう。


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カメラはローポジション、下手からフレームインしてぬいぐるみを拾う人物。流れで睦月とわかるが、イマジナリーラインを越えているため急に左側から人が現れたような違和感が残る。


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上のイマジナリーライン越えは唐突で一見無意味に見えるが、普通に右側から睦月がINして淡々とぬいぐるみを拾うよりも流れに起伏がもたらされ、続く睦月の笑顔の印象を結果的に強めているように見えます。


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重要なのはその後で、窓枠を正中にした2ショットに光が差し二人の出会いが祝福される構図が生まれます。
これはイマジナリーライン越えによる位置入れ替えの効能で、本来ここの背景は見た目にも退屈な反対側、板張りの内壁だったわけです。やはりあのタイミングで越えるしかなかったと僕は考えますが、どうでしょう。


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イマジナリーライン越えの構図は背景パースに脚なめ、人物2人。前回のクラナドも後頭部なめ構図でした。これは方角的な混乱に配慮した慎重な選択であり、該当のイマジナリーライン越えが一定の演出意図に基づくものと判断できる材料となります。




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■舟を編む #05 (2017)

慕ってくる馬締のために不安や動揺を隠し、善き先輩として振る舞おうとする西岡。
強引な下命に腐っていた西岡が、改訂版に取り組む馬締の姿勢に感服し自分に欠けているものを見出す一連。


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背景の棚板を利用したアイラインマッチに、目線カットした横顔クローズアップでイマジナリーライン越え。長台詞だけど芝居も絵面も抑制的で、情報量を極力減らして西岡の感情を視聴者に探らせる。

通常イマジナリーライン越えの演出では前述のとおり方角の混乱を避けようとする、しかしこの各話の場合は引き算的な攻めのコンテ、視聴者への配慮さえ捨て去って印象を強めることに徹しています。
イマジナリーライン越えの絵に殺風景な背景と顔の下半分だけ、これにはそれなりの勇気が要ったはずです。艦これやクラナドの用例とは真逆の、こういうやり方もあるということで。



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category: アニメ

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コメント

アイラインマッチの記事と共に読ませていただきました。
大変興味深いのですが、やはり前後も含めて実際のアニメで見てみないと分からないので、
時間があるときにじっくり考えてんみようと思います。

ところで、
twitter.com/med_ku/status/559244204879011840?lang=ja
など、アニメの担架の進行方向が正しくないという指摘を時々見かけます。
リンクしたツイートの2枚目上段など、付き添いの人が前向きに歩く事、
寝転がっている患者の視線は少し足向きである事を考えると、
視線を合わすにはこう配置せざるを得ないと思います。
現実的な進行方向の場合、どう配置すると収まりがいいのか考えても思いつきません…

URL | K #shG0gkhA
2017/06/16 20:54 | edit

Re:

あー、この手の話は昔からたくさんあるんですよね。心臓マッサージで肘が曲がってるなんて絶対ありえないとか、病院の屋上が患者さんや見舞客に解放されてるとかシーツや洗濯物が干してあるとか。挙げていったらキリがないですね~。ストレッチャーに関してはご指摘の通りで、そのほうがそれらしく見えるからこそ何十年経っても改善されないんですよ。実際に家族や付添があれと伴走しても出来る事は何一つないので配置しようがないですよね。それでも伴走せずにはいられないってところに芝居やドラマがあるんじゃないでしょうか。

URL | 管理人 #pBoZlR9Y
2017/06/17 05:38 | edit

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