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2012秋アニメ ヨルムンガンド PERFECT ORDER(2)  

■ヨルムンガンド PERFECT ORDER http://www.jormungand.tv/

続きです。


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バーナード・ショーの戯曲「バーバラ少佐」(1905年) 第三幕において、
長男にして自己を過大評価する俗物スティーブンの不遜な物言いに対し
父親である大富豪の武器商人アンドリュー・アンダーシャフトが語る
「この世界を本当に支配してるのは誰なのか」その答え。



 「私とラザルスの二人こそが君の国の政府なんだ。
 あの下らない建物に並んで座ってる君やその仲間の素人共が我々を治めてると?
 バカなことを言うんじゃない。

 君たちは我々の商売の採算が合うような政治をやることになるんだ。
 君たちは我々の都合で戦争をやるだろうし、
 その必要が無い時には平和を保つのだ。


 私が儲けを増やしたい時には、この私の要求が国家的要請だと悟るだろう。
 まわりの連中が私の儲けを減らしたいと言えば、君たちは警察や軍隊を動かす。
 その代わり、君たちには返礼として私の新聞の支持を差し上げるし、
 君が偉大な政治家であると自負できるような喜びを差し上げよう」


アンドリュー・アンダーシャフトは兵器製造/販売業者。
「この私は他人を不具にしたり殺したりで大儲けする商売人」と豪語し
その商売や生き様に疑問を持たず、「柔弱な善意」と「貧困」を憎む。

孤児出身で、前半生に体験した貧しさとの戦いから
「害悪の最たるもの、最も悪質なる犯罪とは貧困だ」と言い切り
蓄えた巨万の富にも関わらず、その思想や行動は心理的に強く制限されている。


そのアンダーシャフトの娘バーバラは、正義感が強く、活力あふれる理想主義者。
死の商人である父親の仕事を嫌い、救世軍の一員・バーバラ少佐として
町にあふれる貧困層の救済に熱心な奉仕活動家であったが、
金持ちに媚び、その寄進に甘えながら貧乏人にパンを配る救世軍の矛盾や
運命に満足して無気力に甘んじる貧民たちの姿に無力感を覚え
やがて救世軍を辞して父の元へ向かう。

父の兵器工場は清潔で、労働者たちは活気にあふれ、施設は行き届いていた。
「こんなに美しい工場と素敵な家があって、立派な労働者がいる恐ろしい暗黒の
この場所で、一刻も早く光を見つけ出して」と父に迫るバーバラ。

その欺瞞を、アンダーシャフトが暴いてみせる。



 アンダーシャフト:
 「私は君の魂を救ったのと同じように、ここの労働者たちの魂を救っている」

 バーバラ:
 「私の魂を救ったですって!?」

 アンダーシャフト:
 「君に食べ物や服や家を与えたじゃないか。君たちが心地よく暮らせるよう、
 充分にお金を与えるよう気を使ったんだ。そのために君は、金遣いの荒い
 無頓着な気前のいい女になれた。
 おかげで君の魂は七つの罪から救われたわけだよ。

 食料、衣服、光熱、家賃、税金、世間体、子供。
 お金以外には、この7つのひき臼を人間の首から外せるものなど存在しない。
 そしてそのひき臼が外れない限り、精神は高く舞い上がれはしない。

 では聞くが、君の精神からそのひき臼を外したのはいったい誰だ?
 バーバラがバーバラ少佐になれたのは誰のおかげだ?
 君の人生に自由を与え、貧困という犯罪から救ってあげたのは誰だと思う?」

 


バーバラがこれまでの人生でバーバラたりえたのは
すべて父の経営する死の工場が生み出す利益のおかげ。
戦争と、戦争で死んだ人のおかげだった。

そればかりではない。国の雇用を支え、経済をまわし、
救世軍の活動を支えているのも、飢えた貧民を満足させているのも、
結局は富豪である父アンダーシャフトの事業や、
忌むべきアル中を生み出す酒造業者ボジャーの寄進あればこそ。

少し目を見開けばたやすく見えてくる事実に気づくこともなく
高邁な理念や神秘主義に酔い、人に真実を説いている気でいたバーバラは
衝撃を受ける。



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「ヨルムンガンド」本編に
ゴッドファーザー/フロイド・ヘクマティアルは登場しませんが
彼が幼い兄妹を現場に放り込んで鍛え上げたことや
冒頭の引用からも想像がつくように
キャスパー・ヘクマティアルはフロイドの代弁者であると同時に
貧困への憎悪から解放された次世代のアンドリュー・アンダーシャフトであると
見ることができます。

そのキャスパーがココのヨルムンガンド計画を評して言う
「この世から武器がなくなると本当に思うか?」という問いが
ココの夢想する新世界よりもはるかに力を帯びて見えるのは
他でもない、我々自身が
「きっとココの考えているような未来は来ない」と思っているからでしょう。

我々はどこかで、そういう幻想に対して絶望していて、勝手に冷めていて、
きっと何をどうやっても武器も戦争もなくならないし、貧困もなくならないし、
悲惨な状況は地球のどこかにあって、人は死に続けるわけだけど、
できたらそういうのは自分の暮らしている場所から
なるべく遠くでやっていてほしいと思っている。
口では平和のすばらしさを標榜しつつも、どこかで目を閉じ、
興味を持つのも関与するのも面倒がる。


そしてココ・ヘクマティアルは――
そういった出自や運命の違いに満足し、議論好きで、俗物的かつ高慢で、
自分たちに分け前として与えられたわずかな権利と威厳にこだわる
「我々」こそが70万人の生贄に相応しい、と断罪してみせるのです。

世界に武器があふれ、悲惨な戦争がちっともなくならないのは
むしろ君たちの欺瞞のせいだよ?と言わんばかり。痛烈なシニシズムであります。


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武器、武器商人、暴力を憎むが、それでも強い少年兵。

卑怯な武器で一方的に脅されて、人生や家族、生活のすべてを奪われても
なお弱者に甘んじることを拒み、自由を求め武器を取り、戦うことを厭わなかった。

新世界の女神から選ばれるようなその特別な少年が、
二年間も答えに迷うような命題を
作品は二度にわたって我々に突きつけます。

オープンエンディングには不満が残る向きもあるでしょうが
元より正解の存在しない命題に
迷い続けて欲しい、というのが作品の結論であるということなのでしょう。

僕としては、むしろそこをこそ評価したいです。


ひとつだけ追記しておくと
バーバラ少佐なのはココではなくヨナ。

そしてヨナは最終的に転向してココに付き従ったのではなく
あくまで自分がココを殺すためにココのそばにいることにしたのです。
ココを殺せるのはもうヨナだけだから。

このことに気づいてる人、意外と少ないみたいだけど


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