大匙屋

健康第一

磯光雄という人について僕が思うこと  

作画について真剣に語りだすと方向性を見失う。

アニメとは読むものではなく観るものであるべきだし
犠飛がいくら上手く決まっても三塁コーチがヘタレなら点は入らないし
点が入らなければ試合には負けてしまう
それと同じように、作画がどんなに素晴らしくてもホンや演出がダメなら
作品としては結局ダメだ。
という風に僕は長い間考えていたけれど
時折、そういう価値感や意固地な判断基準を
完全にひっくり返されるような神憑り的に物凄い作画に出会うことがやっぱりある。


つまるところ映像というのは上手に観客を騙すところに醍醐味があるわけで
それは例えば熱い湯がすごく熱そうに見える、硬い壁がすごく硬そうに見える、
その壁を壊す力が凄い力なんだと説得力を持つ、というふうに
「騙す」=「説得」であると考えるとわかりやすい。
上手に説得してくれるのは演出の妙でもあるが
もちろん作画が優れていることが必須条件といえる。


結局そういう映像に説得された時の僕は、ホンやレイアウトなんかに対する興味は忘れ
グレンダイザーやゲッタードラゴンの活躍に胸を躍らせながら
キラキラした瞳でブラウン管に噛り付いていたころの自分に戻っているわけだが
この年になってさえ、稀にそういう現象に出くわすから困る。
その、毎度僕を困らせてくれる何人かのうちの一人が磯光雄である。



磯光雄の仕事を初めて見たのは「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」だった。
多分1990年ごろ。僕はバイト休みの日にすることがなくてレンタルビデオで見たと思う。
当時はもうガンダムにも辟易していたし、いまさら富野作品でないガンダムなんて
見る価値があるのかとさえ思っていたので、何一つ期待していなかった。
ビデオ屋隣接のコンビニで弁当とお茶を買って帰り、0080をビデオにセットして再生開始。
そしてそのまま弁当を食うのを忘れることになった。

冒頭の北極基地攻略シーンですでに掴まれていた。
超高速で氷上を移動するハイ-ゴック
ぐにゃぐにゃの関節駆動、ミサイルの反動、逃げ惑う基地職員の目線
そして質感と立体感にあふれた爆発エフェクト、粉塵、煙焔

なんだこりゃ?どうやって描いてるんだ?と僕は思い
何度も何度もスロー再生して確認したが
何がどう特別なのかは何一つわからなかった。
それが新しいのか、古いのか、緻密なのか、大雑把なのか
度肝を抜かれたというわけではない。
つまりそこにあったのは強烈な違和感だった。
マクロスも王立もすでに観たあとだったはずなのに
何か今までと違うものがそこにあった気がした。
でも、それが何なのかは結局よくわからないままだった。

「0080」は当時まだ無名だった林原めぐみがブレイクするキッカケになった
作品としても有名だが、話の内容なんかはもうすっかり忘れちゃって
今となっては、結局覚えているのは冒頭のシーンだけだ。


そして5年後の1995年、あの「エヴァンゲリオン」がスタートする。

エヴァという作品についての詳細は今更必要ないかと思うが
僕自身があのTVシリーズの中で最も気に入っているエピソードが
第13話「使徒、侵入」だった。
この回は、敵はコンピュータウィルスであり、目に見える形では登場せず
刻一刻とハッキングという手段で侵入してくる使徒と
ネルフクルーとの緊張感あふれる攻防戦を描いた異色のストーリー。
赤木リツコ博士とその母との確執を描く重要なエピソードでもある。

「あたしは母親にはなれそうにないから、母としての母さんはわからないわ。だけど、
科学者としてのあの人は尊敬もしていた。でもね、女としては憎んでさえいたの」
「カスパーにはね、女としてのパターンがインプットされてたの。最後まで女で
いることを守ったのね」
そして最後に「ほんと、母さんらしいわ」という印象的な台詞でカットアウト。
リツコが一方的にしゃべるシーンで話は終わるわけだけれど
それについて受け役(ここではミサト及び視聴者)が主観をはさむ暇を与えない演出。
もちろん計算づくのこととは思うけど、非常にエヴァらしい挿話である上に
台詞に独特の味わいがあり、リツコのパーソナリティが完璧に活かされている。
この脚本は誰だと思い調べたところ、そこに磯光雄の名前があった。
だからこの時は演出方面の人だと思った。


その後しばらくたって、エヴァのスタッフ情報などを漁りまわる過程で
第1話冒頭の使徒襲来、国連軍との戦闘シーン、ミサトの車疾走、N2地雷で横転のシーン
物語の導入部であり重要なシーンだけあって出来も非常に良かったが
それらが磯光雄の仕事だと知るに至り、本来作画の人だったのだと理解する。

そして劇場版「 Air 」量産型エヴァシリーズとアスカの戦闘シーン。
このシーンはアニメの作画にそれほどこだわらない人であっても、この映画を観た人なら
大抵印象に残っていると答える名シーン中の名シーンである。
これも磯光雄の仕事であると、あとからわかった。

じっくりと見てみると、飛行する戦自機体が物理攻撃を受ける瞬間の浮遊感覚や
エヴァシリーズが使用する武器の途方もない重量感、爆発、巻き上がる土砂、
遠心力で振り回されるカメラ、ナイフが刺さるときにアスカが感じる手ごたえや質感などが
画面を通じてビシビシ伝わってくるのがわかる。

その後、磯光雄がエヴァに設定補という肩書きで様々な部分で関わっていることもわかった。
あのネルフ地下にあった、圧倒的な存在感を持つ「リリス」と呼ばれる謎の巨人も
磯光雄のデザインによるものだったらしい。


いったい何もんだこいつは、と思いさらにそこから色々調べてみると
前述した「ポケットの中の戦争」冒頭の北極基地攻略シーンが
やはり磯光雄の仕事だとわかるのに、さほど時間はかからなかった。

そして僕が違和感を感じ、「今までと違うなにか」をそこから感じ取ったのと同じように、
あの基地攻略シーンは発表当時すでに業界で話題となり、数多くのアニメーターが
刺激を受け、その後膨大なエピゴーネンを産み出すに至った事実を知ることになった。
要するに、磯光雄の登場によってアニメの作画やエフェクトは新時代を迎えたのだ。
庵野秀明がエヴァの重要なシーンを磯光雄に任せたのも、充分理解できる話だと思う。

あふれ出てくるようなアイデアと、それを具現化する画力、表現力。
その人の出現によって、それまであったものが違ったものになる。
強烈な印象を残し、通ったあとに確実に新しい道が出来ている。
こういうアニメーターはそう多くはない。
古くは金田伊功、そして板野一郎、もしかしたら庵野秀明もそうかもしれない。
しかし彼らがある種の源流を同一にする作風であるのに対し
磯光雄は誰とも似ていない。予期しないところに突然現れたという印象がある。
それはたとえばケン・イシイや桜庭和志などの登場によく似ている気がする。
彼らが稀代の英雄として、その時代の空気に呼ばれるように姿を現し、
当然のようにそれぞれの分野でその頂点に君臨していったように、
磯光雄もやがて世界にその名を轟かす存在になっていくのではないか。
僕はそんなふうに勝手に思っていたりする。
思い切って言ってしまおう、磯光雄こそが第二の宮崎駿になる男だと。


エヴァの成功後飛躍的に業界内で知名度を上げた磯光雄は、引く手数多だったはずだが
2002年の「ラーゼフォン」で脚本・演出等に参加した以外あまり大きな仕事は受けなくなる。
デジタルワークスやCGI,単発での原画の仕事などは断続的に請け負うが
メインの仕事として注目を集めるような話題とはここ数年無縁だった。

彼はその間、自身の原作・脚本・監督による新作シリーズを準備していたのだ。
それが今年5月からNHK教育で放送されるアニメシリーズ「電脳コイル」である。
天下のNHKが、夕方のアニメ枠を初監督、初脚本のアニメーターの出した企画に任せる。
この待遇だけを見ても、磯光雄の扱いが破格であることがわかる気がする。
勝算のないところではビジネスは絶対に動かないからだ。

我々はこの春、奇しくもかつて宮崎駿が「コナン」でシリーズ初監督を務めたNHKで
今度は磯光雄という強烈な新しい才能が大きく開花する瞬間に立ち会うことになるだろう。




以下ようつべにて、磯光雄作画MADが見れます(神作画@Wikiより)
http://www.youtube.com/watch?v=maJjq7IBnF0

公式ページ


井上俊之/本田雄の参加も決定しているようです。
ガンダム/エヴァ級の作品になる可能性アリか。
ていうかここまで持ち上げて大丈夫なのか俺



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category: アニメ

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コメント

磯光雄について検索してたら、この記事見つけました。
あなたの磯光男についての考察と同じようなことを、私もひしひしと感じていて、すごく共感できました。
磯光雄氏は本当に天才だと思います。
私、アニメはそんなにがつがつとは見ないほうなんですが(ガンダム見たことありません。すいません笑)、エヴァを見るきっかけになったシーンというのがありまして、それが、まさに磯光雄氏が作画担当した1話の冒頭のシーンなのでした。

なんでしょうか、あの頃(僕がまだ中3のころ)は、アニメに関して(まったく無知だったので)なんのフィルターも通していなかったということ前提でお話します。

友達がカラオケで残酷な天使のテーゼを歌っていました。そしたら画面にPVが流れるんですね。それをボーっと見てまして、サキエル襲来の場面が流れてたわけです。そこであの有名な、サキエルがミサイルをとめるシーンを見たときに、ビビッ!っときたんです。

それからエヴァにはまり、アニメを考えながら見るようになっていってから、再び調べてみると、「使徒、侵入」のあの緊張感あふれる話、「男の戦い」でエヴァが4つ足で歩き使徒を食うシーン、旧劇場版のアスカと量産型が一騎打ちする重力感溢れるシーンなど、ピンときた話や場面が、すべて磯さんの関わっているところではありませんか。これはすごいと思いましてね、もちろん0080のあの有名なシーンも見ました。磯さんが監督を務めた電脳コイルも見ました。やっぱりまぐれではなく、全部すごいんですよ笑

それで思ったのは、磯光雄という人物には、ごまかしや不完全な部分がほとんどないんです。極端に言うと、すべて完璧なんですよ。

やっぱり、アニメーターも人間ですから、ほんのちょっとでもアレッ?って思う部分が、どんなにすごい人でもあると思うんです。庵野秀明監督なんかも、僕はエヴァンゲリオン大好きですけども、やっぱりちょっと不完全な部分はあると思います。別にそれが悪いということではないんですよ。どんな本や映画なんかにもいえますが、人間が人間(アニメ)を見るのですから、(アニメ側の)不完全な部分があったとしても、逆にそこが評価されることだってあるわけです。富野氏か宮崎氏かが言ってましたが、アニメを見てる人に、(製作現場で)努力してる、精一杯やってるということが無意識的にでも伝わる作品というのが、面白い作品らしいです。なるほどな、と思いました。

と、不完全な部分が悪いわけではないということをフォローさせていただきましたが、本題に戻ると、
私も磯光雄が、宮崎駿の後継者となりうるべき存在だと思います。似ているのです、天才であり、ほとんど完璧なところが。

宮崎監督の映画でもイマイチといわれるものはあるのですが、じゃあ、どこが悪い?っていわれると、どこが悪いとはいいがたいんですねもっと感覚的にいうと、どこが悪いとはいわないけど、自分は面白いとは思わなかった、みたいな。。(さっき言った、たとえば「エヴァの不完全だった部分というのを指摘して」といわれれば具体的にこのシーンのあれがどう・・・とかいえるのです)

これってたぶん、アプローチの方法とか解釈の仕方が視聴者的にわかりずらかった、とかそういう問題だと思うんですね、僕は。
まあ、ここまでくると作品の完成度自体に原因を追究するというより、好みの問題になってくると思うのですが、結局いいたいのは、そういう意味で磯光雄にも宮崎駿と同じくらいの力量やセンスがあるのではないかということなんです。

なので、作品としては評価されつつ、コイルがこけたのも、そういう部分が受け入れられなかっただけなのであって、作品自体の完成度が低いだとか、力量がないとは言い切れないとおもいます。(まあ、そういう部分含めて、力量だなんていわれると、宮崎駿も評価できないことになりますから、元も子もないです笑)

やっぱり、磯光雄は天才なのだと、僕は思います。関係ないですけど、僕はコイルすごく好きですけどね。

ということで、長くなりましたが、いつか磯さんが認められる時代が来るといいですね。今はむしろなんでこんなに磯さんについての情報が少ないんだと、びっくりするくらいですけど笑

20の糞大学生が自分なりにコメントさせていただきました。

URL | いぬまる #3Dainats
2011/07/01 14:03 | edit

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